制度改革ウォッチ

住宅確保要配慮者への支援に関する国の政策動向:セーフティネット住宅制度を中心に

Tags: 住宅政策, セーフティネット住宅, 住宅確保要配慮者, 社会保障, マイノリティ支援

導入

近年、高齢化の進展や単身世帯の増加、多様なライフスタイルの出現等に伴い、民間賃貸住宅への円滑な入居が困難な人々、すなわち「住宅確保要配慮者」を取り巻く状況が社会的な課題として認識されています。これに対応するため、国は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給促進に関する法律」(以下、本法)に基づき、賃貸住宅の改修や情報提供等を支援する「セーフティネット住宅制度」を推進しています。

本稿では、このセーフティネット住宅制度を中心とした住宅確保要配慮者への支援に関する国の政策動向について、その背景、制度の詳細、現状の課題、そして今後の展望を、関連する公的な議論や資料を参照しながら深く掘り下げて解説します。この情報が、関連分野の研究や政策立案に携わる方々の一助となれば幸いです。

背景:住宅確保要配慮者の現状と制度導入の経緯

我が国においては、高齢者、低額所得者、被災者、障害者、子育て世帯、外国人など、様々な事情から住宅の確保に困難を抱える人々が存在します。これらの人々が民間賃貸住宅への入居を拒否されるケースは少なくなく、住み慣れた地域での生活を維持することが困難になる状況が見られます。従来の公営住宅は供給量に限度があり、また家賃補助制度だけでは住宅そのものを見つける困難さを解消できないという課題がありました。

このような状況を踏まえ、既存の民間賃貸住宅を有効活用しつつ、住宅確保要配慮者の居住の安定を図ることを目的として、2017年10月25日に本法が施行され、セーフティネット住宅制度が創設されました。これは、増加する空き家を活用し、住宅確保要配慮者の居住ニーズに応えるための新たな枠組みとして位置づけられています。

詳細解説:セーフティネット住宅制度の概要と内容

本法に基づき創設されたセーフティネット住宅制度は、主に以下の3つの柱で構成されています。

  1. 住宅確保要配慮者向けの賃貸住宅の登録制度:

    • 耐震性等一定の基準を満たし、住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅を、都道府県等が設置するセーフティネット住宅情報提供システムに登録する制度です。
    • 登録された住宅は「セーフティネット住宅」と呼ばれ、広く情報提供が行われます。
    • 登録の基準や手続きについては、本法および国土交通省が定める関連告示に詳細が定められています。
  2. 登録住宅の改修等への支援:

    • 登録された住宅の改修(バリアフリー化、耐震改修等)に対する国の補助制度(住宅セーフティネット整備事業)が設けられています。これにより、住宅確保要配慮者が安全かつ快適に居住できる環境整備が図られます。
    • 改修補助の対象や補助額は、毎年度の予算や要件によって異なります。
  3. 入居者への経済的支援:

    • 登録住宅に入居する住宅確保要配慮者に対し、地方公共団体による家賃債務保証料の低廉化や、居住支援法人が行う家賃・家賃債務保証への補助といった経済的支援が行われる場合があります。
    • また、国の住宅確保給付金制度と連携し、求職活動を行う生活困窮者に対しては、一定期間の家賃相当額が支給される仕組みもあります。

加えて、本法に基づき、地方公共団体、不動産業者、居住支援団体等で構成される「居住支援協議会」が設置され、住宅確保要配慮者への情報提供、相談、見守りなどの居住支援サービスを提供しています。これらの協議会は、地域の住宅事情や居住支援ニーズに応じて、多様な取り組みを行っています。

影響と論点:制度の現状と課題

セーフティネット住宅制度の創設により、住宅確保要配慮者向けの住宅情報へのアクセスが改善され、一部の地域では登録住宅数が増加しています。しかし、制度の運用開始から数年が経過し、いくつかの課題が明らかになっています。

主要な論点としては、まず登録住宅数の伸び悩みが挙げられます。家主側にとって、住宅確保要配慮者への賃貸は、家賃の滞納リスクや単身高齢者の孤独死等への懸念から敬遠される傾向が依然として強く、登録へのインセンティブが十分でないという指摘があります。このため、家主への情報提供強化や、家賃債務保証、見守りサービスの提供体制整備が重要視されています。

また、居住支援サービスの提供体制の地域差も課題です。居住支援協議会の活動状況は地域によって異なり、住宅情報提供だけでなく、入居時の支援、入居後の見守りや生活相談といったきめ細やかなサービスを必要とする住宅確保要配慮者への支援が十分に提供できていない地域もあります。国土交通省の検討会等においても、居住支援協議会の機能強化や、多様な主体との連携促進が論点となっています。

さらに、入居者のニーズと登録住宅のミスマッチも課題の一つです。例えば、重度の障害を持つ方や認知症のある高齢者など、特に手厚い見守りや生活支援が必要な人々に対して、登録住宅や既存の居住支援サービスだけでは対応しきれない場合があります。医療・介護・福祉サービスとの連携強化が不可欠であり、これらは厚生労働省など他の省庁との連携も必要となるため、省庁間の連携も重要な論点です。

展望とまとめ:今後の見通しと課題

住宅確保要配慮者への支援は、超高齢社会の進展、地域共生社会の実現、外国人住民の増加といった社会構造の変化を踏まえ、ますます重要性を増しています。セーフティネット住宅制度は、その中核を担う制度として、今後もその運用改善と拡充が図られると考えられます。

今後の展望としては、以下の点が挙げられます。

住宅確保要配慮者への支援は、単に住まいを提供するだけでなく、尊厳ある地域生活を可能にするための重要な基盤です。セーフティネット住宅制度は、その実現に向けた重要な一歩であり、今後もその運用と課題に関する議論の動向を注視していく必要があります。本稿で解説した制度の現状と論点が、読者の皆様の研究や実務における考察の一助となれば幸いです。